【第2回】 幸福度はUP、でも仕事は…?世界のベーシックインカム大実験SP


 

前回の簡単なまとめ

「全員にお金を配ったら、み~んな働かなくなって、国がダメになっちゃうよ!」

ベーシックインカム(BI)の話をすると、必ず出てくるこの心配。ごもっともです!そこで今回は、実際にBIみたいなことをやってみた国々がどうなったのか、その驚きの実験結果をのぞいてみましょう!


ケース① フィンランドのパラドックス:「幸せになったけど、仕事はあまり…」

 森と湖の国フィンランドで、2017年から2年間、国を挙げた大規模な実験が行われました。失業中の2,000人に、毎月約7万3千円(560ユーロ)を無条件で配ってみたんです。

【わかったこと】

  • メンタルが超回復! ✨ お金をもらった人たちは、もらわなかった人たちに比べて、生活への満足度がグーンとアップ! ストレスや孤独感を感じることが少なくなり、将来にも自信が持てるようになりました。お金の不安がなくなるって、心の健康にすごく良いみたいですね。

  • でも、雇用への影響は…? 🤔 「これで安心して仕事探しができるぞ!」と期待されたんですが、フタを開けてみると、働く日数はほとんど変わりませんでした。BIをもらった人も、もらわなかった人も、仕事を見つける確率はほぼ同じだったんです。

【ここから見えること】 この結果、「BIは仕事探しの役には立たないのか…」とガッカリしますか?でも、見方を変えると面白いことがわかります。

 失業している人が仕事を見つけられない本当の理由は、「働くと手当がもらえなくなるから」というお金の問題だけじゃなかったのかもしれません。そもそも働ける場所が少ない、持っているスキルと仕事が合わない、健康に問題がある…など、もっと根深い問題があった可能性があります。

フィンランドの実験は、「BIは心の安定剤としては効果バツグン。でも、雇用の特効薬ではないかも」という、大事な教訓を教えてくれました。


ケース② カナダの伝説:「ミンカム実験」の光と影

 話は1970年代にさかのぼります。カナダの田舎町ドーフィンで、「ミンカム」と呼ばれるBIの元祖みたいな実験が行われました。この実験、途中で終わってしまい(当時の政権が力を失ってしまったため)、長年忘れ去られていたんですが、後にある研究者がデータを掘り起こしてビックリ!

【わかったこと(と、思われていたこと)】

  • みんな健康になった! 💪 入院率が8.5%もダウン!特にメンタルヘルスの問題で入院する人が大きく減ったそうです。

  • 学力もアップ! 📚 高校生の卒業率が上がりました。家の手伝いのために働いていた若者が、学業に専念できるようになったからだと言われています。

この「素晴らしい結果」は、BI支持者の間で「伝説」として語り継がれてきました。…が!

【最近のツッコミ】 最近、別の経済学者が「ちょっと待った!」と声を上げました。「そのデータ、よく見ると実験が始まる前から入院率は下がり気味だったんじゃない?本当にミンカムだけの効果って言えるの?」と、統計的な手法に疑問を投げかけたのです。

【ここから見えること】 この論争は、「昔のデータって、解釈が難しいよね」ということを示しています。ミンカムの伝説がすべてウソというわけではありませんが、一つの実験結果を鵜呑みにするのはキケンだということ。もっと新しくて、もっと正確なデータが必要だ、というわけです。



ケース③ アラスカの40年選手:「永久基金」が教えること

 アメリカのアラスカ州では、なんと40年以上も前から、州の石油収入の一部を州民全員に配当金として配っています。毎年10~20万円くらいで、まさに「準ベーシックインカム」!

【わかったこと】

  • 貧困はめっちゃ減った! 😃 この配当金のおかげで、たくさんの人が貧困ラインを抜け出すことができています。特に、子どもや先住民の人々を助ける効果が絶大だそうです。

  • でも、格差は…広がった!? 😟 ちょっと意外な研究結果があります。この配当金、長期的には所得格差を「悪化」させているかもしれない、というのです。なぜなら、お金持ちはもらった配当金を上手に投資してさらに資産を増やせるけど、生活に使うので精一杯の人はそうもいかないから、という理屈です。

【ここから見えること】 「貧困をなくすこと」と「格差をなくすこと」は、似ているようで違う目標だ、ということです。BIは、社会全体の床(ボトム)を上げるのは得意だけど、天井(トップ)がどこまでも高くなるのを防ぐ力はないのかもしれません。格差を本気でなくすなら、BIだけじゃなく、他の政策もセットで考える必要がありそうですね。

 さあ、世界の実験結果、いかがでしたか?BIは単純な成功物語ではなく、複雑で、光もあれば影もあることが見えてきましたね。

 次回は、いよいよ日本でBIを導入するとなったら…?というシミュレーション。「お金はどこから持ってくるの?」「本当に物価は上がらないの?」といった、超・現実的な「3つの大きな壁」に迫ります(あくまでも予定です)!


🧠 もっと知りたい人のための心理学・精神医学コラム

テーマ:『自己決定理論』とフィンランドの実験結果

 フィンランドの実験で「幸福度は上がったが、雇用は増えなかった」という結果は、心理学の『自己決定理論』で考えると非常に興味深い示唆を与えてくれます。

 この理論は、人間のやる気(モチベーション)には、アメとムチによる「外発的動機づけ」(例:お金のために働く)と、楽しさや好奇心からくる「内発的動機づけ」(例:趣味に没頭する)があると説明します。そして、人が幸福でいきいきと活動するためには、以下の3つの欲求が満たされることが重要だと考えます。

  1. 自律性(Autonomy): 自分の行動を自分で決めたい

  2. 有能感(Competence): 自分はできる、役に立てると思いたい

  3. 関係性(Relatedness): 他者と繋がり、良い関係を築きたい

 フィンランドの実験では、BIによって「お金のために嫌な仕事をしなくてもいい」という『自律性』が確保され、経済的な不安が減ったことで、幸福度が向上したと考えられます。人々は、金銭という外発的な動機に縛られず、自分の人生を選択できる感覚を得たのです。

 一方で、雇用が増えなかったのは、多くの仕事がこの『自律性』『有能感』『関係性』を満たすものではなかった、あるいは、人々が仕事以外(例えば、家族との時間、学び直し、ボランティアなど)にこれらの欲求を満たす価値を見出したからかもしれません。

 この結果は、「人はお金だけで動くわけではない」という単純な事実を改めて示しています。BIがもたらすのは、人々が「お金のため」という動機から解放され、より自分らしい「内発的動機」に基づいて人生を再設計する機会なのかもしれません。


「本記事は、公開されている情報や報告書を参考にしつつも、筆者の個人的な見解や解釈を交えて構成しています。査読を受けた学術論文ではありませんので、学術的なエビデンスとしての利用はお控えいただけますようお願いいたします。」

【監修:Nカウンセリングオフィス

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